2018.09.26
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デジタルマーケティングを推進する組織に必要な4つの機能とは?
コラムはアイレップが運営するWebメディア「DIGIFUL(デジフル)」からご覧いただけます。
本記事は、デジタルマーケティングを統合的に分析するためのフレームワーク「7つのC(7Cs with D)」の中から、「Collaboration」に該当する部分を深堀した記事になります。
分析フレームワーク「7つのC」に関してまとめた記事はこちらを参照ください。
Collaborationに関して
「Collaboration」の章では、統合的にデジタルマーケティングを推進するときの組織体制や、部門責任者に求められる能力に関して考察してみたいと思います。
「Collaboration」という言葉は、「協業」とか「共同作業」といった意味があります。日本語でも、「コラボする」という言葉を使いますが、今まで異質だった企業やサービスが連携する、という意味合いで使われることが多いかと思います。統合的にデジタルマーケティングを推進するときにも、様々な部門が連携して、「Collaboration」していくことが求められます。
まず、組織全体に求められる能力を定義し、どの部門がどのようにコラボしていくべきか整理します。そのうえで、関係する部門の担当者に求められる能力を整理していきたいと思います。
組織としてのケイパビリティ
統合的にデジタルマーケティングを推進していくためには、大きく4つの機能が求められるかと思います。「ストラテジー」、「マーケティング」、「テクノロジー」、「オペレーション」の4つです。
文章にすると、「ストラテジー」を考え、「マーケティング」施策に落とし込み、それを「テクノロジー」で実装し、「オペレーション」を回していく必要があります。これら一連の流れを、関係する部門が密接に連携しながら進めていくのが、統合的にデジタルマーケティングを推進していくときの基本的なフォーメーションになります。
次に、4つの機能に関係してくる部門を整理したいと思います。
まず、「ストラテジー」を担う部門は、経営企画部門やデジタルマーケティング推進室(もしくはそれに類似する部門)などが該当します。この部門は、事業戦略やマーケティング戦略を立案し、設定したKPIを定量的にモニタリングしていくのが主業務になるかと思います。
デジタルマーケティングが単なる広報部のプロモーション施策に留まるのか、それとも、全社の経営テーマとして、事業変革の起爆剤として位置付けられるかは、「ストラテジー」を意識した活動になっているかどうかだと考えられます。
「マーケティング」を担う部門は、マーケティング施策全体を推進する部門や、アクイジション施策を推進する広報部門、カスタマーエンゲージメント施策を推進するカスタマーサポート系の企画部門などが該当します。マーケティング施策全体を推進する部分に関しては、デジタルマーケティング推進室が担う場合もありますが、一応、「マーケティング」領域にも位置付けます。また、商品・サービス開発を担う企画部門も「マーケティング」領域に位置づけられるかと思います。
「テクノロジー」を担う部門は、IT部門が該当します。ユーザー部門が企画立案した施策を、テクノロジーでどのように実現していくか、システム要件を取りまとめ、RFPに落とし込み、外部のシステム会社に発注し、サービスがローンチできるようサポートしていきます。部門間の連携で言うと、「マーケティング」に属する部門と、「テクノロジー」に属する部門の連携が、テクノロジーをベースとしたデジタルマーケティングを推進するうえで、とても重要になります。
「オペレーション」を担う部門は、システム運用部門、広告運用部門(トレーディングデスク)、コンテンツ運用部門、カスタマーサポート部門(コールセンターなど)などが挙げられます。7章の「ソリューション実装/運用」で、より詳しく運用体制に関して整理したいと思いますが、広告プロモーションを主体としたアクイジション施策と、MA等を活用したカスタマーエンゲージメント施策では、求められる運用体制が異なります。また、実際のフォーメーションとしては、全て内製化するのではなく、一部は広告代理店やシステム開発会社にアウトソーシングしながら体制を構築していきます。
図表で整理したものが以下の図になります(図1)。
(図1:4つの機能と該当部門)
デジタルマーケティングの組織体制のここ数年の変遷を見ていると、いくつかのステップを踏んで組織が進化してきているのがうかがえます。
2014年当時は、マーケティング部門が単独で推進したり、IT部門が単独で推進するといった部門単独での推進方法が数多く見られました(実際、今でもそういう企業は多いのですが・・・)。
結局、単独部門での推進はうまくいかず、その後、各社は、役員管掌のもと、クロスファンクショナルなタスクフォースを設置し、プロジェクトを推進するかたちに移行していきます。
この取組みは一定成果が出たため、取組みに積極的な企業は、タスクフォースチームをデジタルマーケティング推進室に格上げし、関連する部門をコントロールする権限を付与し、統合的なデジタルマーケティングを推進できるようにしています。
統合的にデジタルマーケティングを推進する組織体制は、これからも進化していくかと思いますが、原理原則としては、全体を推進できる責任者を立てトップダウンで推進すること、また、部門間で連携して進めていくことが、事業として立ち上げていくときの成功要因になるかと思います。
部門責任者に求められる能力
組織としてのあるべき姿を説明したので、次は、担当責任者(個人)に求められる能力に関して整理したいと思います。
まず、統合的にデジタルマーケティングを推進する立場にある責任者から考えてみたいと思います。役職としては、チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)やチーフ・デジタル・オフィサー(CDO)などが、それに該当します。
PwCコンサルティングの調査によると、日本でCDOの役職を設けている企業の割合は、2016年時点で7%で、CDOの名称を問わずデジタル化を推進する責任者の8割近くが、執行役員以上の役職者だそうです。
全世界でCDOを設置している企業の割合は19%とのことなので、日本でCDOを名乗る人はまだ少ないかと思いますが、今後は、大企業を中心に増加していくものと思われます。それでは、CMOやCDOなどで、統合的にデジタルマーケティングを推進する立場にある者は、どのような能力が求められるのでしょうか。
先ほど、組織のケイパビリティで、4つの機能が求められるという話をさせていただきました。「ストラテジー」、「マーケティング」、「テクノロジー」、「オペレーション」の4つです。組織を率いていく者は、当然のことながら、この4つの機能に関して熟知している必要があります。
実際には、戦略面は強いがオペレーションが弱かったり、マーケティングは強いがテクノロジーに弱かったりと、全ての領域をカバーできる人材は少ないかと思います。
ですが、統合的にデジタルマーケティングを推進していくためには、様々な業務を経験して、この4つの領域の能力を身に着けていく必要があるかと思います。
つまり、デジタルマーケティング領域を本格的に強化していきたいならば、人事も巻き込んでキャリアパスを作っていくことが重要です。個人に任せていては、CMOやCDOに相当するハイスペックな人材を育成することはできません。
次に、マーケティング責任者に求められる能力に関して見ていきたいと思います。マーケティング施策の観点で見たときに、広告プロモーションを中心としたアクイジション施策と、カスタマーサポートを中心としたエンゲージメント施策は、今まで別々の部門が対応していました。分かりやすく言うと、広報部とカスタマーサポート部です。
今後、フルファネル型でマーケティング施策を統合的に推進していくことを考えると、部門の責任者になる者は、今まで対応していなかった領域のマーケティング知識を補完していく必要があるかと思います。
また、マーケティング担当者は、テクノロジー面の知識が不足していることが多いので、この部分に関してもスキルアップを図っていく必要があります。ハードルが高いのは、むしろ、こちらの知識補完かもしれません。
テクノロジー担当の責任者はどうでしょうか。一般的に、IT部門が今まで対応してきたシステム領域は、会計システムやサプライチェーンマネジメント、ロジスティックスなどの基幹システムの導入が多かったかと思います。マーケティング領域のシステム導入の難しさは、企業内(もしくは企業間)で完結せずに、エンドユーザーである生活者を想定したシステム化を検討しなければならないことだと思います。ですので、生活者の理解を深めるとともに、マーケティング部門が行っている施策がどういう意味があるかに関しても、理解を深めていかなければなりません。
最後にオペレーション部門の責任者に求められる能力に関して見ていきたいと思います。
まず、アクイジション施策もカスタマーエンゲージメント施策も、よりオペレーティブになっているということです。
広告プロモーションも、純広から運用型広告に移行し、キャンペーン期間中の広告施策の見直しが当たり前になっています。また、マーケティングオートメーションやメッセージング配信ツールも、システム導入がゴールではなく、導入後のサービス運用が非常に重要になります(IT部門が主導してプロジェクトを進めると、システム導入がゴールになり、そのあとのサービス運用を誰もフォローしないという事例を数多く見てきています)。
リソースの観点で見たときに、全てのオペレーション業務を社内で賄うのは現実的ではありません。外部パートナーとどのように連携して、運用業務をまわしていくのか検討していく必要があります。
以上、それぞれの部門に関して、求められる能力を整理しました。統合的にデジタルマーケティングを推進していくためには、自部門の役割・責任をきちんと理解した上で、関連する部門と緊密に連携し、業務を推進していく必要があります。
全体を推進する責任者は当然のこととして、各部門の責任者も広範囲に渡る知識や業務ノウハウが求められます。デジタルトランスフォーメーションという言葉もありますが、一番厄介なのは、組織や人を変革していくことかもしれません。
執筆者
竹内 哲也(たけうち てつや)
NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに参画。2018年より株式会社アイレップも兼務し、グループ全体の統合デジタルマーケティングを包括的に牽引。2019年度より株式会社アイレップ専任執行役員。早稲田大学政経学部卒。専門は事業開発。