2018.08.31
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事業戦略、マーケティング戦略を踏まえて、KGI/KPIを作ってみよう。
コラムはアイレップが運営するWebメディア「DIGIFUL(デジフル)」からご覧いただけます。
本記事では、架空の企業「ザ・スポーツ・カンパニー社」を想定して、KGI/KPIを実際に作ってみたいと思います。(設定として、「ザ・スポーツ・カンパニー社」は、元々製造業としてスタートし、その後、直営店も展開する製造販売会社という位置付けで話を展開します)
まず、KGI/KPIに落とし込む前に、そもそもどのような事業を展開しているのか、事業を規定する儲け方とマーケティング戦略を理解したうえで、KGI/KPIとは何なのかを考えてみたいと思います。
事業の儲け方を理解する
一般論として、大企業であれ中小企業であれ、どの企業であっても、事業を規定する「儲け方」の型のようなものが存在します。専門用語を使うと、「事業経済性」とか「ビジネスエコノミクス」と呼ばれるもので、自社の収益を決定する要因になるものです。
例えば、「規模の経済」、「分散型経済」、「密度の経済」、「範囲の経済」、などがそれに該当します。どれかひとつは、新聞や雑誌等で見聞きしたことがあるのではないかと思います。参考までに、「規模の経済」、「分散型経済」、「密度の経済」、「範囲の経済」、に関して簡単に概要をまとめます。
規模の経済
共通コストがコスト全体の重要な部分を占めているときに、取扱い数量が増えれば増えるほど1個当たりのコストが低減し収益性が高まっていくモデル。スケールメリットを活かした企業活動を指します。例えば、ソフトウェアベンダーは、この事業モデルに該当するため、規模を追求するために一気にグローバル展開していきます。
分散型経済
規模の経済とは違い、共通コストがほとんどなく、個々の経済特性の総和が全体を構成するモデル。例えば、ソフトウェア事業は規模の経済に該当しますが、システム開発などは労働集約的な事業モデルのため、売上規模が大きくなっても収益性は高まっていきません。小規模な小売事業もこのモデルに該当します。
密度の経済
ある特定エリアにおけるユニットの数が増加すればするほど共通コストが効率的になり、単位当たりの経済性が高まるモデル。例えば、コンビニなどが特定エリアに集中出店するのは、密度の経済を活かしたモデルだからです。
範囲の経済
単一製品の量を増やすだけではなく、既存の経営資源を生かして、取扱い製品の種類を増やすことによって、共通コストが薄まり、コスト競争力が高まるモデル。
ザ・スポーツ・カンパニー社は、元々スポーツアパレルメーカー(製造業)として事業をスタートさせたので、事業を規定するモデルは「規模の経済」になります。生産量が増大することで、原材料や労働力に必要なコストが減少していくので、収益力を高めることが可能になります。売れ筋商品をできるだけ多く生産し、1商品単価あたりの原価を低減させることが、この事業の勝ちパターンです。
一方で、20年前から、直営店舗(自社店舗、EC店舗)を展開し、自社で販売事業も手掛けるようになりました。販売事業は、「分散型事業」に該当するビジネスモデルになるので、規模の経済とは違い、コスト全体に占める共通コストが小さいため、店舗ごとの採算性をきめ細かく管理していくことが、利益を着実に積み上げていくことにつながります。
ザ・スポーツ・カンパニー社は、製造業を中心としながらも、販売事業も自前で展開することで、2つの事業経済性を内包した総合スポーツアパレルメーカーを目指そうとしています。
マーケティング戦略を理解する
対コンシューマー向け(B2C企業)のマーケティング戦略は、自社の商品・サービスをまずは知ってもらうところからスタートし、商品やサービスを購入して使ってもらい、継続的なファンになってもらうのが、一般的な流れかと思います。そのうえで、関連する付帯サービスも購入してもらうことで、一人当たりのLTVを高めていくのがセオリーになります。
ザ・スポーツ・カンパニー社の場合、スポーツリテールを中心とした小売店チャネルでの販売と、自社で展開する直営チャネルでの販売の、2つのチャネルに対してマーケティング戦略を展開する必要があります。小売店チャネルや自社店舗はオフライン店舗で、ECチャネルはオンライン店舗という位置付けになります。
また、商品ラインナップを総合的に展開しているため、単品商品の販売だけでなく、できるだけ多くの商品を購入してもらうことが、一人当たりのLTVを高めていくゴールになります。
小売チャネルに対して、直営チャネルは、自社ブランドの世界観を得意顧客にダイレクトに伝えられる場であるとともに、商品をトータルでブランディングし販売することが可能なので、顧客のLTVを高めていくためには非常に重要なチャネルとなります。
また、会員ユーザーが直営チャネルで商品を購入した場合、誰が何を購入したか、より細かく分析することが可能なので、分析結果を商品の品揃えに反映することが可能です。
KGI、KPIへ落し込む
事業やマーケティング戦略を理解したうえで、具体的なKGIやKPIを定義していきます。KGIはKey Goal Indicatorを、KPIはKey Performance Indicatorを略したものになります。日本語にすると、それぞれ「重要目標達成指標」、「重要業績評価指標」と訳されます。シンプルに、前者がゴール設定、後者がゴールを達成するための評価指標と考えていただければと思います。
一般的にKGIは売上・利益の最大化と定義することが多いかと思います。KGIをブレイクダウンしたものがKPIで、KGIひとつに対して、KPIが4つから5つ設定されます。
それでは、上述したマーケティング戦略に基づき、ザ・スポーツ・カンパニー社のKGI、KPIを定義してみたいと思います。
KGIに関しては、同社も同様に、売上/利益の最大化と置きます。ただし、複数のチャネルを活用して事業展開しているため、厳密には、全社で管理するKGIと、販売チャネル毎に管理するKGIを個別に設定してモニタリングしていくほうが、運用がしやすいかと思います。企業によっては、本部KGIとそれをブレイクダウンした店舗KGIを設定し、店長に裁量を持たせ、個店毎にKGIを管理している事例などもあります。
次にKPIの設定です。先ほど述べたようにKPIはKGIを達成するための評価指標になります。どのKPIをいじると、KGIにどのように影響を及ぼすか見極めていく必要があります。(ただし、実際の運用では、KPIが、売上/利益に直接貢献できない場合があります。その場合は、間接指標を置くことで、間接的にKGIに貢献するモデルを作ってみてください)
ザ・スポーツ・カンパニー社の場合、大きく2つの切り口からKPIを整理していきます。一つ目が、本部でコントロールするKPIで、二つ目が、店舗毎でコントロールするKPIです。
本部でコントロールするKPIは、売上/利益に直接貢献する指標ではなく間接的に貢献する指標が中心となります。例えば、「商品力」、「ブランド認知」、「情報受発信」、「顧客数」、「顧客ステイタス」などを置きます。
「情報受発信」はあまり見かけない指標かと思いますが、どのタッチポイントに、どのようなコンテンツを発信し、どれぐらいの頻度で更新しているのかを見るための指標として置いています。また、企業側の情報発信だけでなく、ユーザー側からの情報発信も含め、双方向で情報をやりとりするため、発信ではなく受発信として定義します。例えば、ソーシャルメディア等にユーザーが情報発信したものを把握するソーシャルリスニングなどもこの領域に該当します。それらを含め、「情報受発信」は、コンテンツマーケティング施策をコントロールするKPIになります。
また、「顧客数」や「顧客ステイタス」に関しては、顧客を分析し、購入しそうなターゲット顧客を把握し、来店客数を増やす施策を統合的にマネジメントしていきます。
店舗でコントロールするKPIは、売上/利益に直接貢献する指標を置き、「客数」と「客単価」で管理していきます。「客数」に紐づく「来店客数」は、店舗でのコントロールだけではなく、本部もコントロールし、新規顧客ならびに既存顧客(リピート客)を店舗へ送客する支援を行っていきます。
図(図1)にまとめると以下のようになります。基本はKGI/KPIの標準モデルを策定し、実際の運用では、チャネル(店舗)毎にKGIの数値目標とKPIの評価基準を変更し、それに紐づく打ち手も変えていくことになります。
(図1:ザ・スポーツ・カンパニー社のKGIとKPI)
執筆者
竹内 哲也(たけうち てつや)
NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに参画。2018年より株式会社アイレップも兼務し、グループ全体の統合デジタルマーケティングを包括的に牽引。2019年度より株式会社アイレップ専任執行役員。早稲田大学政経学部卒。専門は事業開発。