2018.08.17
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デジタルマーケティングを統合的に推進するためには、事業責任者は、何をどのように推進していくべきか。
コラムはアイレップが運営するWebメディア「DIGIFUL(デジフル)」からご覧いただけます。
デジタルマーケティングを統合的に推進する立場にある方、例えば、チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)やチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)、また、統合デジタルマーケティング室室長のような方は、広告プロモーションだけに留まらず、顧客とのエンゲージメント施策やマーケティングテクノロジーの整備、事業を推進するための組織作りなど、様々なことを横断的に推進していくマネジメント能力が求められます。
今回は、デジタルマーケティングを推進する責任者の方を対象に、何をどのように推進していくと全体最適で事業を推進することができるのか、実務で活用できる導入ステップや分析フレームワークに関して、情報提供できればと思います。
4つのステップで取り組みを推進
まず、デジタルマーケティングを統合的に推進するために、「A.戦略/事業理解」、「B.課題の整理/構造化」、「C.マーケティング施策の立案」、「D.ソリューション実装/運用」の4つのステップを踏んで取り組みを整理していきます(図1)。
(図1:4つの導入ステップ)
最初に着手するステップが「A.戦略/事業理解」です。
まずは、自社で展開する事業がどういう「儲けのメカニズム」になっているのか整理するところからプロジェクトをスタートしていきます。当たり前と言えば当たり前の話なのですが、実際、何のための施策なのか、何のためにソリューションを導入するのかが不明確なまま、プロジェクトが進んでしまうことが、意外に多いのも事実です。
事業を推進するうえでのKPIをスタート段階できちんと定義し、マーケティング施策がどのKPIにどの程度効いてくるのか明確化したうえで、プロジェクトを進められるよう準備していきます。
2つ目のステップが、「B.課題の整理/構造化」です。
マーケティングコミュニケーションを全体最適で整理するための分析フレームワーク「7つのC(7Cs with D)」を活用して、統合的・網羅的に自社の取組状況を整理していきます。
3つ目のステップが、課題の整理/構造化を踏まえた「C.マーケティング施策の立案」になります。
新規顧客向けのアクイジション施策や、既存顧客向けのカスタマーエンゲージメント施策、また、新規顧客と既存顧客をLTVの観点から統合的に管理するフルファネル施策など、施策全体の具体化を推進していきます。ここまでのステップが、「何をやるべきか(WHAT)」の整理になります。
4つ目のステップが、「D.ソリューション実装・運用」の検討です。
3つ目のステップで検討したマーケティング施策案に対して、どのようなマーケティングテクノロジーを活用して施策を実現し、運用を回していくべきか整理していきます。3つ目までが「何をやるべきか(WHAT)」だったのに対して、4つ目のステップが「どのように実現するか(HOW)」の整理になります。
これら一連のステップを踏むことで、企業がやるべきこと・やりたいことを「何をやるべきか(WHAT)」、「どのように実現するか(HOW)」の両面から整理していきます。
ここまでご説明したとおり、導入ステップという観点で見ると、検討すべきステップは4つしかありません。
まずは、ステップ1として事業の儲け方を理解し、ステップ2では分析フレームワークを活用して課題を整理/構造化し、ステップ3で打ち手としてのマーケティング施策を立案する。そして、最後にステップ4で、それを実現するためのテクノロジーを検討し、プロジェクトを円滑に進めるために具体的な実行計画を策定していくという流れになります。
分析フレームワーク:「7つのC(7Cs with D)」
次に、デジタルマーケティングの検討範囲に関して整理したいと思います。
デジタルマーケティングを包括的に推進する立場にある方は、何をどの程度まで検討する必要があるのでしょうか。
デジタルマーケティングが分かりづらい要因のひとつとして、既存のマーケティングのフレームワークではデジタルを中心とした世の中の動きをうまく捉えきれず、全体像が把握しづらいという悩みがあるかと思います。
例えば、マーケティングフレームワークの王道である「4P(または、顧客視点での4C)」や、生活者の購買導線プロセスを把握するための「AISAS」などは、たしかに非常によくできたフレームワークかと思われます。ですが、実際にこのフレームワークを活用してデジタルマーケティングを推進するとなると、どうもしっくりこないのではないでしょうか。
また、昨今流行りの「カスタマージャーニー」も、生活者視点では非常によくできたフレームワークかと思いますが、これで全てが完結できるかというと、こちらも、「帯に短し襷に長し」で、全ての課題をうまく整理することができません。
企業と生活者でやり取りされるコミュニケーションを、生活者視点で整理できるだけでなく、マーケティングコミュニケーションを実現するためのシステム検討の話や、マーケティング予算やROIの管理、施策を推進するための組織体制など、企業の内部管理的な話も含めて、デジタルマーケティングを包括的に整理できないものでしょうか。
誰もが、そのフレームワークに基づいて課題を整理することで、部分最適に陥ることなく、デジタルマーケティングを統合的に推進できるのが理想です。この課題を解決するために、独自に開発した分析フレームワークが「7つのC(7Cs with D)」です。
マーケティングコミュニケーションを全体最適で包括的に整理していくために、まずは、大きく2つの視点から取り組みを整理していきます。
一つ目が、生活者と企業の間でやりとりされることをまとめていくという視点です。先ほど述べた生活者視点に該当する部分です。二つ目は、生活者は直接関係なく、あくまで企業内に閉じて、検討すべきことをまとめていくという視点です。
便宜上、前者を「企業外(の視点)」、後者を「企業内(の視点)」とネーミングします。まず、「企業外」で括れるものが、「1.Customer」、「2.Channel」、「3.Creative/Contents」、「4.Communication」の4つのCです。次に「企業内」で括れるものが、「5.Cloud」、「6.Cost」、「7.Collaboration」の3つのCです。
これら7つの切り口をひとつのキーワードにまとめたものが「7Cs」になります。また、「With D」ですが、こちらは、「Data(データ活用)」になります。7つの切り口全てにデータが関わってくるという意味も込めて「With D」という表現を使っています。分析フレームワークを絵で整理すると以下のような図(図2)になります。
(図2:7つのC(7Cs with D))
さらに細かく、見ていきたいと思います。
まず、「企業外」に該当する4つのCは、「どの顧客に対して(Customer)」、「どのチャネルを使って(Channel)」、「どういうクリエイティブやコンテンツで(Creative/Contents)」、「どのようなコミュニケーションを行うのか(Communication)」という切り口で整理することができます。
順番も重要で、まずは、誰が自社サービスを利用しているかという「Customer」から検討をスタートし、その後、「Channel」、「Creative/Contents」、「Communication」という順番で取り組み課題を整理していきます。
次に、「企業内」に該当する3つのCですが、こちらは、「ヒト」、「モノ」、「カネ」を、それぞれ「Collaboration」、「Cloud」、「Cost」に置き換えたものと考えていただければと思います。
デジタルマーケティングを推進する立場から考えると、生活者とやりとりする施策ベースのことだけを考えればいいのではなく、それを推進するための「人(組織)」、「モノ(システム)」、「金(予算/ROI)」をどのようにマネジメントしていくかも、非常に重要なポイントになります。ですので、「企業外」だけでなく「企業内」の視点も加味し、包括的に課題を整理していきます。
この「7Cs」及びそれに付随するデータ「With D」を切り口として課題を整理していくことで、(ある程度)漏れなくダブりなく意味のある切り口で、マーケティングコミュニケーション全般に渡る課題を整理することができるのではないかと思います。
取り組みの全体像:「4つのステップ×7つのC(7Cs With D)」
ここからさらに、何をどういう手順で推進していくと効果的・効率的なマーケティングコミュニケーションを行うことができるのか、取り組みの全体像を構造化したいと思います。
まず、先ほど整理した「A.戦略/事業理解」、「B.課題の整理/構造化」、「C.マーケティング施策立案」、「D.ソリューション実装/運用」の4つのステップを横軸に置きます。
次に、分析の切り口として整理した「7つのC(7Cs with D)」に「全体」という項目を追加して縦軸に置きます。これで、導入ステップと分析フレームワークが、縦と横でマトリックス化し、構造的に整理されたかと思います。
図(図3)で整理したものが、以下のマトリックスになります。
(図3:取り組みの全体像)
マトリックスが整理できたところで、各プロセスで何を検討すべきか、概要を説明したいと思います。
まず、「A.戦略/事業理解」では、全体に関わることとして、「事業理解」、「マーケティング戦略の理解」、「KGI/KPI」の整理を行い、それ以降の検討事項を「KGI/KPI」に紐づけて考えられるようにしていきます。
「B.課題の整理/構造化」では、「7つのC(7Cs With D)」の切り口から、「カスタマー分析(Customer)」を踏まえて、「カスタマージャーニーの設計(Channel)」、「クリエイティブ/コンテンツの分析(Creative/Contents)」、「現状のマーケティング施策の分析(Communication)」、「システムの導入状況の把握(Cloud)」、「マーケティングROIの分析(Cost)」、「組織の現状把握(Collaboration)」をおこなっていきます。
「C.マーケティング施策の立案」では、統合コミュニケーション戦略の全体像を整理したうえで、「アクイジション施策」、「カスタマーエンゲージメント施策」、その両者を掛け合わせた「フルファネル施策」を検討します。また、広告以外の切り口として「コンテンツマーケティングを活用した施策」に関しても、このパートで検討します。
最後の「D.ソリューション実装/運用」では、システムの全体像を整理したうえで、どのマーケティングテクノロジーツールを選択し、どのような手順で実装・運用していくべきか、7つのCの切り口から整理していきます。
執筆者
竹内 哲也(たけうち てつや)
NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに参画。2018年より株式会社アイレップも兼務し、グループ全体の統合デジタルマーケティングを包括的に牽引。2019年度より株式会社アイレップ専任執行役員。早稲田大学政経学部卒。専門は事業開発。